comicbird’s blog

備忘録として我が家所蔵の漫画を全て記録しておこうと思いつき、始めました。

ぺパミント・スパイ2 佐々木倫子氏

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ぺパミント・スパイ完結巻のようです。

 

第一話:ぺパミント・スパイ(ピーターラビットは諜報部員編)

  あらすじ;今回主人公に下された任務は駅前デパートの潜入捜査。東に情報を流しているスパイ網を暴き出すのが目的。候補に挙がっているのは2つの派閥。そのうち、片方の派閥のトップはスパイ養成学校の校長の恩師であった。主人公はバイト店員、委員長は客となり、同級生などとともに捜査を開始する。

 

 このお話では、スパイ養成学校の校長にスポットがあてられています。冒頭から校長と恩師とのの思い出が語られ、校長のこの任務に対する複雑な思いがわかります。

 校長の恩師に対する気持ちが回想を通して自然とわかります。えげつなく説明するようなことはありません。

 恩師との様々な回想は効果的に盛り込まれており、その後の恩師の行動がきちんと納得できます。えっ!何でこんな行動いきなりとるの?ということがありません。

サブキャラなどを使って延々と説明させることなどもありません。

 

 またこの恩師、非常に個性的です。所属組織では、このような立ち位置になりたいという理想的な上司です。組織側の人間にしたらやりにくい人間でしょうが。

 

 そして主人公の生い立ちも紹介されます。主人公の人格形成にとって重要な母親の性格設定が秀逸です。作中でもモブが語っていましたが、あの母親ならそうなるよね…と違和感なく思えます。ここら辺のセンスが抜群なのです。

 

第二話:ぺパミント・スパイ(田舎の日曜日編)

  主人公が休暇で帰省したところ、近所の幼馴染と再会。幼馴染は両親がおらず、叔父と一緒に住んでいる。そして、主人公に叔父を殺害するつもりだと告白。本当に幼馴染は叔父を殺害するつもりなのか主人公の推測が始まる。

 

 まず冒頭が素晴らしいです。これにより、主人公の両親の異常性をまざまざを見せつけ、生まれてからずっとその異常性に巻き込まれきた主人公の処世術を垣間見ることができます。スパイ学校で得た知識を総動員して切り抜けるさまは鮮やかです。そして、たまらなく馬鹿馬鹿しくて心臓をわしづかみにされます。第一話で軽く紹介された母親もきちんと登場します。

 

 主人公の家族関係を素晴らしい形で紹介した後にゲストキャラである少年時代の友人が登場します。こちらも友人の性格や主人公との関係性などが回想をうまく織り込んで自然とわかるよう構成されています。

 

 そして設定や最初に出てきた情報はきちんと後々関連づけられてお話を彩っていきます。

主人公を弁護士にさせたくてゴリ押ししまくる父親のおかげで主人公はにわかに法律関係の知識が増え、後半に友人の叔父殺害計画解決に大いに役立つこととなりますし、興味を持ったことにはすべからく高い能力を発揮する、という主人公の性格設定も相まってお話を面白くします。

 

 また、殺害計画を知っても冷静に情報を集めて観察、分析を繰り広げて全くもって正義感ぶることなく友人に接する様が大好きです。殺害を実行しようとしている友人も考えの軸がしっかりして一貫しており気持ちが良いです。

 

 最後にはあっさり爽やかに終わるのも佐々木倫子氏の作品らしいと思います。

 

第三話:ペパミント・スパイ(暁の人工都市編Part1)

  あらすじ;郊外に建設された学者、研究者が集う人工都市クレセントシティー。何故か自殺者が多く、そのうちの一人が実は潜入捜査をしていた非常に優秀なスパイ仲間であった。

彼の死の真相を突き止めるべく主人公、委員長、校長はそれぞれの肩書でクレセントシティーに潜入して調査を開始する。

 

 こちらのお話は、1、2話の作者コメントコーナーにあった通り、モデル都市であるつくば学園都市を取材した上で作成されたようです。

 取材した情報の使い方がとても上手で大変読み応えがあります。当時、人工的な都市での自殺者急増が確かに話題になっていた時期があったと思います。そのような時事問題も題材に取り入れつつ、きちんとリアリティーのある世界を作り上げ、色んなエピソードを混ぜ込んで日常感も存分に醸し出します。それ故、スルスルと読みやすいのだと思います。

 余談ですが、”動物のお医者さん”など後々の作品でも、取材能力の高さをまざまざと見せてくれます。

 お話の内容に戻りますと、3人の潜入場所でのなじみ方が三者三様で面白いです。校長は苦悩し、委員長はそつなくこなし、主人公は全く天然力技で苦もなく溶け込みます。

 そしてゲストキャラ、若い女性研究者が登場して物語が動き出し、女性ゲストキャラと自殺が疑われるスパイ仲間との恋愛関係などが発覚。次回へと続きます。

 

第四話:ぺパミント・スパイ(暁の人工都市編Part2)

  あらすじ;いったん本部へ経過を報告しに行った校長も戻り、さらに調査を続ける3人。するとスパイ仲間が自殺をした日にもう1人蒸発した人物がいたことが判明する。

 

 お話の構成がますます洗練されており、感動します。派手さやドラマティックな要素はありませんが、流れるような展開とすべての設定を活かしきる結末。独語の余韻に浸ってしまいます。

 また画力も上がっています。特にファッションのデッサン力がずば抜けています。衣装のバラエティもさらに富んでおり、それだけでも楽しめます。

 そう言えば、佐々木氏はお裁縫が趣味でした。なるほど納得!

 直感的な感性という部分は目立たないのですが、事物の情報をセンス良く拾い上げて緻密に構成させる能力が本当に高い方だと感じました。

 

第五話:ぺパミント・スパイ(運動場の参謀編)

  あらすじ;スパイ養成学校校長の個人的事情により、野球チームを作って試合をすることになった主人公達。主人公は自ら志願し、4番ピッチャーとなるものの経験は少年野球どまり。その他でも野球が得意な人材はほぼ皆無。監督となる校長に至っては野球について全然御存じない。それぞれが独自の練習を重ねて試合当日を迎える。

 

 これまでの単行本に目を通し、佐々木倫子氏のお話が馬鹿馬鹿しくも大好きなのはなぜだろうかと考えました。

 例えば今回のぺパミント・スパイの舞台は場所だけを見るならば欧米を思わせるお洒落な街です。なのに、ドカドカと日本のローカル要素をオブラートに包むこともなく直球で惜しげも無くブッ込んできます。

 上品な設定にこれでもかと究極的にダサダサしい要素をねじ込んでくるわけです。この高低差により、お話を引き締めて最後に良い余韻を出せるのではと思います。

 

 今回のお話では校長の思い出に運動会が出てきます。これだけでも基本ダサいですが、エピソード例が『鯉の滝登り』です。どうでしょう、このマイナーかつ凄まじいローカルさ。でも結構知ってる人がいる…。これを取り上げるセンスです!ちなみに知らない人用にわかりやすい説明までついています。

 これらの知識を知り合いに披露すると”通だ”と思われること間違いありません。佐々木倫子氏の作品にはこの様なお宝級の雑学が随所に盛り込まれています。