comicbird’s blog

備忘録として我が家所蔵の漫画を全て記録しておこうと思いつき、始めました。

岩泉舞作品集七つの海&MY LITTLE PLANET 岩泉舞氏

個人的に大変大好きな漫画家さんです。その昔、集英社で七つの海で短編集が出版され、続編を待って待って待ち続け絶版となり、泣く泣く諦める事早何年だったか…2021年に小学館で収録作品追加で出版となりました。何と言う奇跡でしょうか。

どうやらきたがわ翔氏がYouTubeで言及して実現した様です。感無量…。感謝してもしきれません。

 

○ふろん(1989オータムスペシャル)

  あらすじ:ある日男子校生は誰かに呼ばれた気がした。翌日何か忘れている気がしながら登校すると、誰も彼の名前を思い出せず、彼自身も自分の名前を思い出せなかった。その日の下校途中、彼をフロンと呼ぶ少女が現れて消えた。更に彼の母に聞いてもわからず、翌日学校でも彼の名は全ての書類から消えていた。彼が一人屋上に佇んでいると再び少女が現れる。少女は彼が小学三年の時に亡くなった同級生、阿部夏美のユーレイであった。

 

 …これがデビュー作のクオリティでしょうか。絵柄は高橋留美子氏、鳥山明氏のテイストを感じます。そして心折れる程のお話の秀逸さです。誰かに呼ばれた冒頭エピソードが最後にループして使われ、それが非常に上手く!効果的です‼︎はっきり言って失敗すると非常にカッコ悪くなります。デビュー作で何と言う技を繰り出すのでしょうか。恐ろしい…恐ろしすぎます。更にセリフの言い回しや言葉も吟味され、きちんと引き算されています。読後も心地良い余韻に浸れる魅力的な作品です。

 

ここからCOM COP2まではお話毎に岩泉氏の作品に対するコメントもあり!です。

 

○忘れっぽい鬼(1989ウインタースペシャル)

  あらすじ:鬼の住む竜田村鬼山の学校に東京から転校して来た少女、神山小鳥は何故か下校途中鬼にさらわれた。目覚めると小鳥は鬼の寝ぐらにおり、鬼の風魔と雷魔、そして神かくしにあったとされる村長の次男坊稲田次郎氏1歳がいた。風魔は当初次郎に乳を与える為牛を連れてくる予定だったがそれを忘れ、小鳥の乳で大丈夫そうだと思い連れ帰ったようだ。小鳥は風魔達が次郎を連れ去ったと思い込み、次郎を抱えて逃げる。

 

 2作目です。御本人言及の通り1作目とは少々雰囲気が変わり、少年誌らしい元気な勢いのあるテンポとセリフ、明るい馬鹿馬鹿しさとお笑いも楽しめる作品となっています。鬼、風魔の忘れっぽい性質がなかなか強引にねじ込まれている感はありますが、やはりストーリー展開の上手さが光ります。そしてカラッと明るいお話の中にも異形に対する人間の差別観など、ハッとする様な考えさせられる内容も自然と盛り込まれているのが流石です。

 

○たとえ日の中…(1990本誌デビュー)

  あらすじ:鎌倉、北条氏の御代、巷では滅ぼされた三浦家の隠し財産の噂が広まっていた。放助は友人から三浦の宝探しに誘われるが、何も無いだろうと断る。その後放助は追い剥ぎを試みるも相手の尼である少女がどうも世間ズレしており、母の形見まで差し出されて調子が狂う。更に少女は道に迷い、尼寺まで送り届ける羽目になる。命連と名乗った少女が寺に歩き始めると放助の目に炎上する寺が飛び込んで来た。その後放助は少女が三浦家唯一の生き残りと知る。

 

 今回は鎌倉時代のお話ですが、本当にお話の流れが自然で負担なく読めます。説明セリフや文章は必要最低限に抑えられているのに、きちんと状況や登場人物の性格などがわかる様になっています。放助が鬼であるのを紹介する流れも見事です。関連する過去の夢をここしか無い!と言うタイミングで放助に見せ、更に現実と回想を交えながら鬼である事を隠しながら生活している事を説明しています。命連を助ける為に馬で駆ける描写も、一コマずつアップにして行く技術など褒め所はキリがありません。

 

○七つの海(1991)

  あらすじ:大人になりたくない11才ユージは子供に戻りたい78才のじいちゃん+家族と暮らしている。ユージとじいちゃんはそれぞれが『七つの海』と言うテレビゲームに日々勤しんでいた。ユージはアトピー性皮膚炎の為、保健室の若い女医杉山先生に気にかけてもらっており、密かに好意を抱いていた。杉山先生は『七つの海』の美しいヒロインに似ていた。放課後杉山先生が去った後、ユージは見知らぬ同世代の少年に声を掛けられる。彼は日野泰造と名乗り、ユージの祖父であると言う。

 

 個人的に岩泉舞氏を知ったのは、このお話をジャンプ本誌で見た時でした。その後短編集を見つけ購入しました。以来ずっと手元にある単行本です。現実とファンタジーが絶妙に混在するこの麗しい作品は、変わらず私の心を魅了し続けました。絵柄は御本人も言及の通り大分変わっています。高橋留美子氏要素が減り、鳥山明氏のテイストが大幅に増えた気がします。そして夕方の最高に美しい情景に向けて紡がれて行くエピソードは読後の心地良い余韻にいつまでも浸っていたくなります。因みに新装版は巻頭カラー再現!感激!!

 

○COM COP/コムコップ(1991)

   あらすじ:幽霊課刑事コム=コールマンは今日も迷う幽霊に声を掛けて話を聞く。母親を心配する少女の幽霊の為、コムは昔話を始める。…その日コムは赤ん坊の一人息子との団欒を中断され、悪霊退治をした。襲われた被害者は、犯人が霊術師マックスであるとコムに告げ息を引き取る。しかしマックスは市長に立候補する程の大物で、おいそれと手は出せない。コムは独自に色々調べ始め、マックスはそれに気付き釘を刺そうとする。しかしマックスの思惑を知ったメイドのベルはコムに接触する。

 

 こちらも大変お気に入りの作品です。舞台は恐らくロンドン辺りがモデルと思われます。少女の幽霊へのカウンセリングをプロローグとエンディングに、メインを回想話で据えるというお洒落な映画の様な構成です。主人公コムの一人息子、トム君への溺愛ぶりと仕事に対する真剣さのギャップも良し!です。他の登場人物も言動と行動に違和感なく、引っかかる所がありません。適切なキャラクター作成にお話の構成力、どちらも兼ね備えている貴重な作家さんであると感じます。

 

○COM  COP2/コムコップ2(1992)

  あらすじ:幽霊課刑事コム=コールマンは最近息子が冷たいと、後輩刑事カルロスに嘆く。8才になった息子のトムはトムで仲の良い女友達サキが急によそよそしくなり、イライラしていた。しかしその日の夜中サキがトムの寝床に現れ、コムが使っている剣を見たいという。その直後虚無が帰宅してサキを見るなり剣を構える。サキはまだ力が足りないとその場を逃げる。唖然とするトムにコムは、サキにカーリーと言う悪い霊が取り憑いたと告げ、再び仕事に出掛ける。

 

 ヨーロッパが舞台で悪霊退治で、と設定はありがちと思われますが、きちんと作り込めばいくらでも面白いお話にできるとこちらのシリーズは教えてくれます。今回主人公は息子トムに移った様で、よりジャンプ読者層に近い目線となっています。小学生男子のまだ恋ともつかぬ女友達との交流についての葛藤やトムの母親の死の真相が、悪霊カーリーと上手い具合に絡み合って構成されています。続編を期待するのは致し方ないクオリティの高さです。

 

○COM  COP-小さな佳人-

                     (原作/村山由佳1993)

  あらすじ:幽霊課刑事コム=コールマンはある夜、街中に現れ子供を食おうとしていた怪物グールの腕を切り落として退治する。そして現場に近所のハーネス夫人がいるのを見つけ、声を掛ける。彼女はこの日も寝付けなくて散歩をしていたと言う。コムはハーネス夫人が最近夫と息子を亡くしてなかなか立ち直れずにいる事を気に掛けていたが、ある日帰宅すると明るさを取り戻したハーネス夫人がトムといた。トムから連絡を受け、飼い猫のピートを迎えに来たと言う。

 

 ここからは新装版のみの収録となります。小学館様には感謝あるのみです。あまりに長い間待ち続けた続編でしたが原作が別の方となり、明らかに前作と差が出てしまっています。絵柄も変わってはいますが、何より作品の空気感が変わってしまいました。たとえ設定が同じでもセリフの言葉選びや誰にどのセリフを喋らせるか、又は状況説明の表現方法などで作品の質が大いに変わると言う事を比較し学べる貴重な収録作品でした。

 

○KING(1992)

  あらすじ:若い男の旅人らしいブラックは、少女リンネを連れてマーリ国首都エンリルヘ来た。リンネは川にバッグを落としてしまい魔法で取り戻そうとするが、ブラックはこの国で魔法使いは牢屋行きであると教える。二人はブラックの昔の知り合いの家に宿泊する事になるも、疎外感を感じたリンネはブラックが知り合いと一局やっている間に人知れず出て行ってしまう。一方ブラックはこの一局が終わったら、13年前マーリ国に滅ぼされた出身国コドリアを取り戻しに行くと知り合いに告げる。

 

 作品の時系列的にはこちらと次の作品がコムコップ3より先に発表されていた様です。こちらは御本人原作の様です。舞台になる国の軽い説明から始まり、主人公達に街を歩かせながらこの国の特徴、主人公達2人の関係性、性格などストーリー展開の中に様々な紹介が盛り込まれています。とってつけた様な説明台詞が極端に少ないのが岩泉氏の作品の素晴らしい所であり、その取捨選択はなかなか難しく、そこのセンスが抜群なのが岩泉氏の特徴であると思われます。

 

○クリスマスプレゼント(原作/武論尊1993)

  あらすじ:ひかるはクリスマスに行われる幼馴染ヨシ坊の挙式に出席した。ひかるを振り他の女性を選んだヨシ坊に仕返しすべく、ひかるは隠し持っていた銃を取り出す。その様子に気付いたもう1人の幼馴染、カツユキがひかるを止めようとした拍子にひかるは発砲してしまい、出席していたご婦人の頭に赤いペンキが飛び散ってしまった。異変に気付きザワつく会場でカツユキはひかるから銃を奪い、クリスマスにわざわざ結婚式で呼び付けて見せつけた腹いせにとヨシ坊の顔に照準を合わせる。

 

 岩泉氏原作では見当たらない都会恋愛モノです。武論尊氏がこの様なお話を書くと言うのもなかなか驚きでした。そして絵柄は更に変化し、内容と相まって高橋留美子めぞん一刻の世界を彷彿とさせます。当時の最後2作品が今泉氏原作ではなかった事が興味深いです。確か御本人が遅筆であると言及されていた記憶がありますが、当時の出版社側で作品数を増やす為、試行錯誤した結果であろうかなどと推測したりします。

 

○MY LITTLE PLANET(2021描き下ろし)

  あらすじ:魔法炉のエネルギーにより豊かに暮らせる都市リーヴスラシルに住む少女、マーニーとグレイス。此処では数十年の間彼女達以外子供が生まれておらず、2人は国から大切に育てられていた。ある日2人に大賢者から球形のゲームが送られた。1人1個与えられ、それぞれ自分が住みたくなる星を育てる様告げられる。マーニーは面倒臭がったが、2人は星を育てる事になった。既に誕生し始めた人類を見つけグレイスは彼らの幸せを望み、マーニーは彼らの不幸を望んだ。

 

 …新作…。単行本の絶版を知り、風の噂で創作をやめて会社員をされている様だと知ってからの長い長い期間、忘れずにいて本当に良かったと胸がいっぱいになります。正反対とも言える少女2人の性格を軸に世界創造と言う壮大なテーマも加え、人が幸せを掴み取る為の考え方の1つを示してくれています。とても分かりやすく、読みやすい、そして清々しい読後感は全くブランクを感じさせません。ファンタジーに関しては唯一無二の存在と感じます。Twitterも開設されて創作活動も再開された様で、今後のご活躍を切に願う次第です。