comicbird’s blog

備忘録として我が家所蔵の漫画を全て記録しておこうと思いつき、始めました。

代名詞の迷宮 佐々木倫子氏

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食卓の魔術師、家族の肖像よりつづく第3弾。多分完結編。

 

第一話:山田の猫

  あらすじ:主人公の近所に住む男性画家とその妻の座を狙う女性のお話。

ある日主人公が飼い犬の散歩をしていたところ、不審な女性を見かける。彼女は近所の画家の家の周りを着崩れた着物で何回もぐるぐるぐるぐる回り続ける。次の日、主人公が画家の家へ回覧版とおすそ分けを渡そうとインターホンを押そうとしたら、ファンキーな衣装に身を包んだ昨日の不審女性が接触してきた。

 

このお話より主人公中心というよりは、主要キャラ以外の心理描写の方に重きが置かれていくようです。冒頭オープニングでは2匹の猫のやり取りより始まります。後半はゲストキャラなどにもモノローグが付き、主人公はどちらかというと傍観者的になっていきます。

加えて、このお話では2匹の猫の描写にも大分重きが置かれています。ますます主人公の影が薄いです。表題の通り、家族の肖像で登場した山田の猫は重要な役割を果たしています。下手したら猫、主役ですか?位。

そして画家の家族構成が、のちの大ヒット作『動物のお医者さん』の主人公家族の原型と見て取れます。男性画家がハムテル、母親はおばあさん、猫はたま、それにチョビとひよちゃんを加えれば西根公輝一家の完成です。男性画家と母親はハムテルとおばあさんにそっくりです。

と、色々見どころ満載です。

さらに結婚話のはずですが、やはりさすが佐々木倫子氏。少女漫画誌なのに一辺倒の恋愛話にはしません。きちんとイカれた謎の人物を出し、情報を小出しにして最後に真相をぶつける。主人公たちの馬鹿馬鹿しい推理過程や、男性画家も色々振り回されながら無駄に一生懸命考える様が素晴らしいです。

 

第二話:代名詞の迷宮 シリーズ完結話と思われます。あぁ、残念…

  あらすじ;ゲストキャラのやくざの娘の恋愛に巻き込まれる主人公の話。ある日曜日、主人公と親友が地下鉄に乗って転寝しており、目が覚めると見知らぬ女性と目が合った。女性は主人公をじっと見つめていたようだが、人の顔を覚えられない主人公に心当たりがあるはずもない。後日、地方にいた主人公の祖父が亡くなったため、葬式に出るべく準備をするが、主人公にとって恐怖の見知らぬ人ばかり。無理やり親友を同席させようと試みるが、親友は何者かに襲撃を受ける。

しかたなくもう一人の友人についてきてもらい、JRで切符を買おうとしたところ先日地下鉄で主人公を凝視していた女性と再び対峙するが、お互い同一人物という確信が持てず接触無し。そして葬式が行われる祖父の家に着いたとき、再びその女性が何故か祖父の家から出てきた。

 

最終話にふさわしく、複数回をまたぐという気合の入った構成となっております。

これまでの佐々木倫子氏の持ち味が存分にちりばめられた大変豪華なお話です。今までの主要人物、動物総出で繰り広げられます。もちろん動物にもゲストキャラがおります。さらに地方にまで舞台を広げ、場面展開を駆使した構成、ヤクザの抗争なども絡めて奥行き充分。

回想シーンも多く登場しますが、その内容がまた絶妙にズレている感じでセンスの塊です。

因みに個人的な一番のお気に入りは最初の方の主人公兄が親戚の叔父からの電話をとるシーンです。やり取りがたまりません。あのようなセンスはどこで培われるのでしょうか。

最後のモノローグも大好きです。余韻が美しく残り読後感が爽やかな気分になります。

 

第三話:風の上 空の下→連載前の読み切りとお見受けしました。まだ絵柄が若干不安定です。

  あらすじ;S市にある美術男子大学生の恋愛物語。男子学生が想いを寄せる女学生にはぞっこんの教授がおり、何とか教授のゼミに入るべく課題の凧作りに精を出す毎日。様々な出来事を経ても一向に男子学生に脈ありとは感じられない。
S市は佐々木倫子氏在住の町。ばふん風。今の人はわかるでしょうか。一昔前は春になると多少話題になったりしていた気がします。
そのような地元情報を織り交ぜつつラブコメ風なお話となっています。エピソードの数々が日常のちょっとしたズレを上手く組み合わせて、やはりセンスの良さを感じます。女学生とその友人のやり取りも馬鹿馬鹿しくて大変好みです。
この頃から登場人物の衣装には力が入っていますね。

 

 勝手に総括しますと、こちらのシリーズは当時の少女漫画の連載としてはなかなか異色な内容だったのではと思います。そのため独自性が思う存分楽しめ、特に無表情でオチを決める時のセリフのセンスが全くもって素晴らしい。以後の作品でもこのテイストが貫かれており、嬉しい限りです。個人的には少女漫画における無表情、テンション低めキャラの走りではないかと感じております。