comicbird’s blog

備忘録として我が家所蔵の漫画を全て記録しておこうと思いつき、始めました。

岩泉舞作品集七つの海&MY LITTLE PLANET 岩泉舞氏

個人的に大変大好きな漫画家さんです。その昔、集英社で七つの海で短編集が出版され、続編を待って待って待ち続け絶版となり、泣く泣く諦める事早何年だったか…2021年に小学館で収録作品追加で出版となりました。何と言う奇跡でしょうか。

どうやらきたがわ翔氏がYouTubeで言及して実現した様です。感無量…。感謝してもしきれません。

 

○ふろん(1989オータムスペシャル)

  あらすじ:ある日男子校生は誰かに呼ばれた気がした。翌日何か忘れている気がしながら登校すると、誰も彼の名前を思い出せず、彼自身も自分の名前を思い出せなかった。その日の下校途中、彼をフロンと呼ぶ少女が現れて消えた。更に彼の母に聞いてもわからず、翌日学校でも彼の名は全ての書類から消えていた。彼が一人屋上に佇んでいると再び少女が現れる。少女は彼が小学三年の時に亡くなった同級生、阿部夏美のユーレイであった。

 

 …これがデビュー作のクオリティでしょうか。絵柄は高橋留美子氏、鳥山明氏のテイストを感じます。そして心折れる程のお話の秀逸さです。誰かに呼ばれた冒頭エピソードが最後にループして使われ、それが非常に上手く!効果的です‼︎はっきり言って失敗すると非常にカッコ悪くなります。デビュー作で何と言う技を繰り出すのでしょうか。恐ろしい…恐ろしすぎます。更にセリフの言い回しや言葉も吟味され、きちんと引き算されています。読後も心地良い余韻に浸れる魅力的な作品です。

 

ここからCOM COP2まではお話毎に岩泉氏の作品に対するコメントもあり!です。

 

○忘れっぽい鬼(1989ウインタースペシャル)

  あらすじ:鬼の住む竜田村鬼山の学校に東京から転校して来た少女、神山小鳥は何故か下校途中鬼にさらわれた。目覚めると小鳥は鬼の寝ぐらにおり、鬼の風魔と雷魔、そして神かくしにあったとされる村長の次男坊稲田次郎氏1歳がいた。風魔は当初次郎に乳を与える為牛を連れてくる予定だったがそれを忘れ、小鳥の乳で大丈夫そうだと思い連れ帰ったようだ。小鳥は風魔達が次郎を連れ去ったと思い込み、次郎を抱えて逃げる。

 

 2作目です。御本人言及の通り1作目とは少々雰囲気が変わり、少年誌らしい元気な勢いのあるテンポとセリフ、明るい馬鹿馬鹿しさとお笑いも楽しめる作品となっています。鬼、風魔の忘れっぽい性質がなかなか強引にねじ込まれている感はありますが、やはりストーリー展開の上手さが光ります。そしてカラッと明るいお話の中にも異形に対する人間の差別観など、ハッとする様な考えさせられる内容も自然と盛り込まれているのが流石です。

 

○たとえ日の中…(1990本誌デビュー)

  あらすじ:鎌倉、北条氏の御代、巷では滅ぼされた三浦家の隠し財産の噂が広まっていた。放助は友人から三浦の宝探しに誘われるが、何も無いだろうと断る。その後放助は追い剥ぎを試みるも相手の尼である少女がどうも世間ズレしており、母の形見まで差し出されて調子が狂う。更に少女は道に迷い、尼寺まで送り届ける羽目になる。命連と名乗った少女が寺に歩き始めると放助の目に炎上する寺が飛び込んで来た。その後放助は少女が三浦家唯一の生き残りと知る。

 

 今回は鎌倉時代のお話ですが、本当にお話の流れが自然で負担なく読めます。説明セリフや文章は必要最低限に抑えられているのに、きちんと状況や登場人物の性格などがわかる様になっています。放助が鬼であるのを紹介する流れも見事です。関連する過去の夢をここしか無い!と言うタイミングで放助に見せ、更に現実と回想を交えながら鬼である事を隠しながら生活している事を説明しています。命連を助ける為に馬で駆ける描写も、一コマずつアップにして行く技術など褒め所はキリがありません。

 

○七つの海(1991)

  あらすじ:大人になりたくない11才ユージは子供に戻りたい78才のじいちゃん+家族と暮らしている。ユージとじいちゃんはそれぞれが『七つの海』と言うテレビゲームに日々勤しんでいた。ユージはアトピー性皮膚炎の為、保健室の若い女医杉山先生に気にかけてもらっており、密かに好意を抱いていた。杉山先生は『七つの海』の美しいヒロインに似ていた。放課後杉山先生が去った後、ユージは見知らぬ同世代の少年に声を掛けられる。彼は日野泰造と名乗り、ユージの祖父であると言う。

 

 個人的に岩泉舞氏を知ったのは、このお話をジャンプ本誌で見た時でした。その後短編集を見つけ購入しました。以来ずっと手元にある単行本です。現実とファンタジーが絶妙に混在するこの麗しい作品は、変わらず私の心を魅了し続けました。絵柄は御本人も言及の通り大分変わっています。高橋留美子氏要素が減り、鳥山明氏のテイストが大幅に増えた気がします。そして夕方の最高に美しい情景に向けて紡がれて行くエピソードは読後の心地良い余韻にいつまでも浸っていたくなります。因みに新装版は巻頭カラー再現!感激!!

 

○COM COP/コムコップ(1991)

   あらすじ:幽霊課刑事コム=コールマンは今日も迷う幽霊に声を掛けて話を聞く。母親を心配する少女の幽霊の為、コムは昔話を始める。…その日コムは赤ん坊の一人息子との団欒を中断され、悪霊退治をした。襲われた被害者は、犯人が霊術師マックスであるとコムに告げ息を引き取る。しかしマックスは市長に立候補する程の大物で、おいそれと手は出せない。コムは独自に色々調べ始め、マックスはそれに気付き釘を刺そうとする。しかしマックスの思惑を知ったメイドのベルはコムに接触する。

 

 こちらも大変お気に入りの作品です。舞台は恐らくロンドン辺りがモデルと思われます。少女の幽霊へのカウンセリングをプロローグとエンディングに、メインを回想話で据えるというお洒落な映画の様な構成です。主人公コムの一人息子、トム君への溺愛ぶりと仕事に対する真剣さのギャップも良し!です。他の登場人物も言動と行動に違和感なく、引っかかる所がありません。適切なキャラクター作成にお話の構成力、どちらも兼ね備えている貴重な作家さんであると感じます。

 

○COM  COP2/コムコップ2(1992)

  あらすじ:幽霊課刑事コム=コールマンは最近息子が冷たいと、後輩刑事カルロスに嘆く。8才になった息子のトムはトムで仲の良い女友達サキが急によそよそしくなり、イライラしていた。しかしその日の夜中サキがトムの寝床に現れ、コムが使っている剣を見たいという。その直後虚無が帰宅してサキを見るなり剣を構える。サキはまだ力が足りないとその場を逃げる。唖然とするトムにコムは、サキにカーリーと言う悪い霊が取り憑いたと告げ、再び仕事に出掛ける。

 

 ヨーロッパが舞台で悪霊退治で、と設定はありがちと思われますが、きちんと作り込めばいくらでも面白いお話にできるとこちらのシリーズは教えてくれます。今回主人公は息子トムに移った様で、よりジャンプ読者層に近い目線となっています。小学生男子のまだ恋ともつかぬ女友達との交流についての葛藤やトムの母親の死の真相が、悪霊カーリーと上手い具合に絡み合って構成されています。続編を期待するのは致し方ないクオリティの高さです。

 

○COM  COP-小さな佳人-

                     (原作/村山由佳1993)

  あらすじ:幽霊課刑事コム=コールマンはある夜、街中に現れ子供を食おうとしていた怪物グールの腕を切り落として退治する。そして現場に近所のハーネス夫人がいるのを見つけ、声を掛ける。彼女はこの日も寝付けなくて散歩をしていたと言う。コムはハーネス夫人が最近夫と息子を亡くしてなかなか立ち直れずにいる事を気に掛けていたが、ある日帰宅すると明るさを取り戻したハーネス夫人がトムといた。トムから連絡を受け、飼い猫のピートを迎えに来たと言う。

 

 ここからは新装版のみの収録となります。小学館様には感謝あるのみです。あまりに長い間待ち続けた続編でしたが原作が別の方となり、明らかに前作と差が出てしまっています。絵柄も変わってはいますが、何より作品の空気感が変わってしまいました。たとえ設定が同じでもセリフの言葉選びや誰にどのセリフを喋らせるか、又は状況説明の表現方法などで作品の質が大いに変わると言う事を比較し学べる貴重な収録作品でした。

 

○KING(1992)

  あらすじ:若い男の旅人らしいブラックは、少女リンネを連れてマーリ国首都エンリルヘ来た。リンネは川にバッグを落としてしまい魔法で取り戻そうとするが、ブラックはこの国で魔法使いは牢屋行きであると教える。二人はブラックの昔の知り合いの家に宿泊する事になるも、疎外感を感じたリンネはブラックが知り合いと一局やっている間に人知れず出て行ってしまう。一方ブラックはこの一局が終わったら、13年前マーリ国に滅ぼされた出身国コドリアを取り戻しに行くと知り合いに告げる。

 

 作品の時系列的にはこちらと次の作品がコムコップ3より先に発表されていた様です。こちらは御本人原作の様です。舞台になる国の軽い説明から始まり、主人公達に街を歩かせながらこの国の特徴、主人公達2人の関係性、性格などストーリー展開の中に様々な紹介が盛り込まれています。とってつけた様な説明台詞が極端に少ないのが岩泉氏の作品の素晴らしい所であり、その取捨選択はなかなか難しく、そこのセンスが抜群なのが岩泉氏の特徴であると思われます。

 

○クリスマスプレゼント(原作/武論尊1993)

  あらすじ:ひかるはクリスマスに行われる幼馴染ヨシ坊の挙式に出席した。ひかるを振り他の女性を選んだヨシ坊に仕返しすべく、ひかるは隠し持っていた銃を取り出す。その様子に気付いたもう1人の幼馴染、カツユキがひかるを止めようとした拍子にひかるは発砲してしまい、出席していたご婦人の頭に赤いペンキが飛び散ってしまった。異変に気付きザワつく会場でカツユキはひかるから銃を奪い、クリスマスにわざわざ結婚式で呼び付けて見せつけた腹いせにとヨシ坊の顔に照準を合わせる。

 

 岩泉氏原作では見当たらない都会恋愛モノです。武論尊氏がこの様なお話を書くと言うのもなかなか驚きでした。そして絵柄は更に変化し、内容と相まって高橋留美子めぞん一刻の世界を彷彿とさせます。当時の最後2作品が今泉氏原作ではなかった事が興味深いです。確か御本人が遅筆であると言及されていた記憶がありますが、当時の出版社側で作品数を増やす為、試行錯誤した結果であろうかなどと推測したりします。

 

○MY LITTLE PLANET(2021描き下ろし)

  あらすじ:魔法炉のエネルギーにより豊かに暮らせる都市リーヴスラシルに住む少女、マーニーとグレイス。此処では数十年の間彼女達以外子供が生まれておらず、2人は国から大切に育てられていた。ある日2人に大賢者から球形のゲームが送られた。1人1個与えられ、それぞれ自分が住みたくなる星を育てる様告げられる。マーニーは面倒臭がったが、2人は星を育てる事になった。既に誕生し始めた人類を見つけグレイスは彼らの幸せを望み、マーニーは彼らの不幸を望んだ。

 

 …新作…。単行本の絶版を知り、風の噂で創作をやめて会社員をされている様だと知ってからの長い長い期間、忘れずにいて本当に良かったと胸がいっぱいになります。正反対とも言える少女2人の性格を軸に世界創造と言う壮大なテーマも加え、人が幸せを掴み取る為の考え方の1つを示してくれています。とても分かりやすく、読みやすい、そして清々しい読後感は全くブランクを感じさせません。ファンタジーに関しては唯一無二の存在と感じます。Twitterも開設されて創作活動も再開された様で、今後のご活躍を切に願う次第です。

近未来不老不死伝説バンパイア5 徳弘正也氏

VOL.34:マリア処刑

  あらすじ;人知れず本体のマリアが拘束されている中、マリア会集会では本田マリアの公開処刑が行われようとしていた。十文字篤彦はそれを阻止すべく、潜伏している潜水艦から中国へ核ミサイルを発射しかけたが、火炙り直前に始まったマリアの叫びを聞き、処刑されるマリアはクローンだと気付く。そして今までも数々のマリアのクローンが駆使されていた事を確信し、新たなる勝負へと決意を固める。

 

 マリアの排泄をお世話するクローンのマリアに設定されたプログラムがお下劣気味にマニアックなので、受付けない方も出るかもしれません。このお世話を受けるだけでもかなりメンタルをやられそうです。マリアには今、充分に哀しみに浸る暇はあまりなさそうです。その頃阿南将軍は集会でマリア処刑の演出を成功させ、更に地位を確実にします。個人や大衆の心理操作について並々ならぬ能力を持っている事がわかります。

 

VOL.35:実験動物マリア

  あらすじ;マリアの前に姿を現した阿南将軍は、これからマリアが不老不死の研究が成功するまで生きながら身体を切り刻まれ続ける事を告げる。一方平山氏は自宅で1人、本当の天使は昇平、ブーちゃん、影山の3人ではないかと苦悩する。そして篤彦は自身の身体に翼を付ける手術を受ける。その後も阿南将軍は意識の無いマリアを犯し続け、その間国はマリア律法が謳う正しい社会が日々繰り広げられた。しかし、ある日から阿南将軍の顔色は悪くなっていった。

 

 阿南将軍、平山氏、篤彦それぞれの行動が描かれています。苦悩する平山氏が印象的です。3人の中で平山氏が一番通常人寄りの精神を持つ事が伺えます。阿南将軍と篤彦は尋常ではない強さの、ブレない目標があります。その点でそれ程強いビジョンが見受けられない平山氏は、色々悩む事と思われます。悩みとは新しい考え方に気付くチャンスとも捉えられます。平山氏が上手く気付けるかは別として、その様な事も教えてくれる回の様な気がします。

 

VOL.36:阿南将軍への罠

  あらすじ;阿南将軍はマリアの口車に乗り、監視カメラを切らせて起きているマリアを堪能し始める。マリアの要求に応じて阿南将軍がマリアに挿入しようとした瞬間、マリアは阿南将軍の喉元に喰らい付く。阿南将軍がどんなに足掻こうとマリアを剥がす事ができない。マリアはテレパシーが通じる様になった阿南将軍に、黒焦げを回避したければマリアの拘束具に設定されている電気ショックを切るよう要求する。

 

 遂にマリアが動きます。阿南将軍はたとえ恐ろしい幻覚が視える様になっても、マリアの肉体の魅力には抗えない様です。男の悲しい性でしょうか。性欲は人間の根源的な欲で、本人が冷静な判断を下すのは相当難しいと思われます。マリアは永い永い経験からよく熟知していたのかもしれません。阿南将軍の欲望を上手く刺激した上で自分の能力、身体を全て使って自由を勝ち取るべく突き進みます。

 

VOL.37:脱出

  あらすじ;重戦車ロボットに破壊された容器から何体ものクローンマリアが襲って来る。標的の阿南将軍は重戦車の裏に避難し、重戦車の攻撃が再開されてクローンは全滅する。その後マリアは阿南将軍指示により複数ヶ所撃たれ、両腕を引きちぎられそうになるが、ギリギリでかわして重戦車の機能を停止させようとする。その間阿南将軍は部屋から脱出しようとするが、最近視る様になった以前始末した小谷清子氏の幻覚が再び現れて動けなくなった。

 

 表面的には気付かなくても、阿南将軍の中に無意識下で良心の呵責などがあったのでしょうか。それはそうと不利と悟ると凄まじいまでの命乞いを始める阿南将軍は清々しい程です。マリアはそんな人間を山と見てきたのでしょう。相手にもしません。そしてマリアは自身の力で自由を取り戻し、やっと昇平を失った哀しみに浸る時間を得ました。マリアの願いはずっと昔から変わりません。しかし人間がいる限り、邪魔をする者が絶えないのは悲しい話です。

 

VOL.38:全てはマリアのために…

  あらすじ;体の機能も万全に、翼も取り付けて仕上げにヅラを選び、十文字篤彦は部下を連れて潜水艦を出発する。マリア会では全国から原理派兵士を集めた集会が開かれ、阿南将軍紹介のもとに新しい神マリアが登場する。兵士達のボルテージが最高潮に達する中、集会に紛れ込んでいた篤彦はいきなり翼を広げ、「全てはマリアを守るため…」と飛び立ち、神マリアの近くまで行くと神マリアの額を撃ち抜いた。

 

阿南将軍がマリア会に新しい神マリアを掲げて正に天下を取ろう、という瞬間を狙ったこれ以上無い最高のタイミングでした。阿南将軍を天国から一瞬で大人数の前で言い逃れさせずに地獄へと突き落とし、邪魔者の排除と自身の返り咲きを同時に行なってしまいました。この一瞬に向けて気の遠くなる様な時間を掛け準備してきたと言う事で、自分演出に関して他の追随を許さない篤彦、流石と言わざるを得ません。

 

VOL.39:全てはマリアを守るために

  あらすじ;教祖篤彦が生きていたと驚愕する信者達に篤彦は神マリアの人工知能脳みそを示し、神マリアはクローンであった事を明らかにした。阿南将軍の側近達は阿南将軍に説明を求め、阿南将軍は騙すつもりはなかったと許しを乞う。更に締め上げられる阿南将軍を尻目に平山は、篤彦に10年前マリアを武器商人に売り渡した事実を挙げ、篤彦に教祖を名乗る資格はないと主張する。

 

 平山氏は最期に正義を見せました。しかし篤彦を見抜き、独り訴えても準備万端の篤彦の前では通用しません。篤彦に危険因子と看做されれば死、あるのみです。それだけ平山氏は篤彦の本質を突いていたのでしょうが、感情の昂るままに主張してしまい最悪の結果となってしまいました。一方阿南将軍は投獄されましたが、命は助かりました。抜け殻となっても篤彦の言動の矛盾に気付く所は流石です。阿南将軍がその後、生き延びられたか知りたいものです。

 

VOL.40:マリアの決意

  あらすじ;十文字篤彦がマリア会革新派と戦争を始めようしているのを察し、人々は東京から逃げ出す。忘れ去られたマリア会聖地に潜んでいたマリアは、街の様子から篤彦の行おうとしている戦争を知る。マリアは篤彦が長い年月をかけて入念に準備し、独裁者に返り咲いた手腕は憤りながらも見事と認めた。しかし戦争だけは止めねばならないと客が1人もいない電車でマリア会集会所へ向かう。

 

 マリア会幹部の粛清を済ませ、革新派一掃を目指す独裁者篤彦。篤彦は海中に拠点を構え、人知れず時を費やし、針程の隙も無い様入念すぎる準備を整えて今の最高の環境を手に入れました。自分の一挙手一投足で思い通りになってくれる大衆に満足げな篤彦。心酔し切っている信者達は騙されているとは夢にも思っていないでしょう。しかし今は完璧に見える篤彦も、どこから綻びが生まれるか分からないのが世の常です。

 

VOL.41:地下より永遠に

  あらすじ;昇平に貰った指輪をはめてマリアは集会所へ入って行く。篤彦が新しい側近10名の一級天使を紹介していく裏で、マリアは警護の兵士から武器を奪い、その後の兵士達には神マリアを名乗りながら集会会場へ向かう。篤彦が天使の紹介を終え、演説を続けようとした瞬間、マリアが剣を構えながら篤彦へと向かって来る。一瞬驚愕し、篤彦は私は神マリアだと言うマリアの言葉を消す様にマリアをクローンと決めつけ指のマシンガンでマリアを蜂の巣にする。

 

…大変、大変名残惜しくはありますが、これにて名作バンパイアは完結となります。

今や一国の独裁者となった篤彦にマリアは昇平の指輪と共に斬り込み、神マリアを名乗ります。最後にマリアに自分の本性を告げ、マリアの首を刎ねた篤彦。昔、赤ん坊の篤彦を殺そうとしたマリアの判断は正しかったと思われます。しばらくは篤彦の天下でしょうが、他人の言葉に耳を傾けず、自分しか愛さない篤彦の未来に本当の幸せはあるのでしょうか。マリアは残念ながら戦争を止める事は出来ませんでしたが、本田マリアとしての生を全うしました。幸せとは何であるか、人生を生きるとはどういう事か、深く考えさせてくれる傑作と言えるかと思います。

 

新作への道ロードオブしんさく

 次の徳弘氏の新作に向けた調べ物や取材の様子などが紹介されているエッセイ漫画です。全くブレず、エロエロ要素満載の予感がします。

 

近未来不老不死伝説バンパイア四 徳弘正也氏

VOL.26:始動天使軍

  あらすじ;残り4人となった20戦士が影山の元に集い、クローンの”大和のマリア”による女児出産を報告した。女児は翌日には幼女に急成長する。裏で何体ものクローンが使われている事を知らない影山達はクローンがバンパイアを生んだと考え、マリア会の襲撃が近いと予想する。マリア達はブーちゃんを街に帰そうとするがブーちゃんは残る決意をし、共に闘う事となる。そして本田マリア生捕のため、大量の兵士達が送り込まれてきた。

 

 いよいよマリア達とマリア会の直接対決が幕を開けようとしています。新しい神、マリア誕生の演出も成功させて、本田マリア捕獲の為阿南将軍は大軍を投入します。今回は激戦の前にブーちゃんの男気を思う存分見せつける素晴らしいエピソードが盛り込まれています。マリアとブーちゃんは本当に良い関係を築いてきたのだと目頭が熱くなります。昇平や影山もブーちゃんを大事に思っている事が伝わって来るお気に入りの回です。

 

VOL.27:神々の戦い

  あらすじ;マリア会の集会会場で生中継される中、戦いはマリア会の銃撃で幕を開ける。ブーちゃんは取り敢えずお釜に隠れている。銃弾の嵐は昇平が全てガードし、続くレーザー砲の雨は影山が吸収する。そして昇平による銃弾のガードを受けながら、マリアと影山は敵を次々と斬り続け、始末していく。その後ブーちゃんに「おせーよ」とツッコまれながら20戦士4人もマリア達の援護を始める。

 

 戦闘開始となります。前回の終わりから大量の武器持ち兵士や戦闘機が描かれております。そして今回冒頭2ページを使い、その大量兵士が音もなくマリア達へ整然と前進して行く様は圧巻です。その後は静から動へと言わんばかりの爆音響き渡る戦闘シーンです。構成の素晴らしさが光ります。更にマリア会会場で生中継もされている為、描かねばならない人物の量が半端ではありません。全く手を抜かれることのない描写に只々圧倒されるばかりです。

 

VOL.28:覚醒者

  あらすじ;昇平は止むことのない銃弾の嵐を1人で守り続ける。マリアは昇平からレーザー銃をもらい、更に迎撃を続ける。影山も片目を負傷しながらどんどん兵士達をマシンガンで撃ち続ける。大軍に怯む事なく戦い続けるマリア達の映像を見ていたマリア会信者達は本田マリアが本当に悪魔なのか疑問を持ち始める。しかし、兵士達の銃弾を止め続ける昇平は限界を迎えようとしており、マリアのレーザー、影山のマシンガンの弾も底つこうとしていた。

 

 今回も激戦メインとなっています。戦闘シーンの描写の細かさもさることながらお話の構成の上手さにも感服です。冒頭に昇平のキツそうな様子をさりげなく入れてからマリア達を勢い付かせ、傍観しているマリア会信者達の心が動いた所に昇平の体力限界、武器のエネルギー切れ寸前などのピンチを描きます。状況がジェットコースターの様に上から下へと目まぐるしく変化し、興奮しっぱなしの回です。

 

VOL.29:影山の戦い

  あらすじ;倒れた昇平に代わり、怯えながらも銃弾を止め続けるブーちゃんに守られながら、マリアと影山はピンポイントのレーザーで兵士達を始末し続ける。その様子に目が離せないマリア会信者達は、益々自分達が間違っているのではと感じ始める。影山のレーザーは遂に底をつき、影山はマリアに援護射撃を依頼する。マリアから激励のキスを受け、影山は右手の刀で単身斬り込んでいく。

 

 前回で覚醒したブーちゃん。何故弾を止められるのか本人もよくわかっていない様です。泣きながら弾を全て止めているブーちゃん、大活躍です。そしてマリア会信者達の心境変化が丁寧に描写されています。マリアの援護を受けながら1人敵陣の中を駆け抜け続け、兵士達を翻弄し、最後の最期まで斬り続けた影山。阿南将軍が中継を止めさせる程です。人の心を動かすものは、本気の覚悟を伴った者の行動なのだと教えてくれる回です。

 

VOL.30:バンパイアの誇り

  あらすじ;中断された映像スクリーンを前に、マリア会信者達は下を向き言葉も無い。阿南将軍はその様子に激昂しながらも、自分は引き続きマリアの中継を注視する。影山亡き後、ブーちゃんにも懇願されてマリアは一旦降伏しかけるが、意識が戻った昇平に促され再び刀を携え単身敵陣に斬り込んで行く。阿南将軍の足を狙えとの指示に、兵士達は銃の照準を合わせて撃とうとするが、何故か銃が作動しなくなった。

 

 昇平からブーちゃんへの能力指南があります。ブーちゃんは昇平に教わりながら、兵士達の銃の機能ををピンポイントで歪め続けます。生死がかかっているとはいえ、ブーちゃんはとても筋が良い様です。ブーちゃんの援護でマリアは次々と兵士達を倒して行きます。ですが、やはり最後にマリアの背中を押したのは昇平でした。マリアが生まれた時からマリアの幸せを考え、マリアをマリアらしく生き続けさせようとする昇平は、マリアにとって一番の理解者であり、無二の存在なのでしょう。

 

VOL.31極限のマリア

  あらすじ;マリア会信者達の訴えにより、マリアの映像が再び映る。マリアは背中をざっくり切られ、傷と共に上半身が露わとなる。昇平はマリアを助けに行き何人か兵士を始末するが、遂に念動力が消えて身体を上下真っ二つにされ息絶える。マリアは慟哭の後、昇平の「生きろ」と言う願いに応えるべく攻撃を再開する。ブーちゃんは身じろぎもせずマリアを援護し続ける。マリアの鬼気迫る様は阿南将軍をゾッとさせる程だった。

 

 昇平とマリアの今生の別れとなります。最期までマリアを守ろうとする昇平は涙無しでは見られません。通常は真っ二つでも暫く生きているのでしょうが、即死も納得の極限状態だったと思われます。マリアは悲しみに浸る間もなく戦い、動き続けます。ブーちゃんも兵士達の銃に集中し、ブーちゃんの戦いを繰り広げます。動と静。コントラストが見事です。精魂尽き果てるまで戦い続けたマリア。平山氏始め、心動かされた信者は多かった事でしょう。

 

VOL.32:戦いの後に

  あらすじ;マリアの両手が拘束され、ヘリで運ばれる。信者達は「悪は滅びた」と言うアナウンスも耳に届かず、映像から目が離せない。1人残ったブーちゃんも平山氏による制止の訴え虚しく、兵士達に串刺しにされて絶命する。夥しい数の死体もそのままに兵士達は撤退、マリアは絶対睡眠の中軍部へ提出用のクローンとすり替えられ、本体は阿南将軍の待つクローン研究所へと密かに運ばれた。

 

 無表情で近づいて来る兵士達にブーちゃんは泣きながら思いの丈をぶつけます。兵士側にしてみればブーちゃんの能力により何人もの仲間が殺された訳です。只黙ってブーちゃんを次々と串刺しにする兵士達。表情から彼らの心境を窺い知る事は出来ません。彼等は本当にプロである事が伝わって来ます。そしてマリアの戦い振りに刺激されてか平山氏の阿南将軍への対応が回を経て徐々に変化しています。平山氏と阿南将軍ではマリアへの考え方が少々違っていた様です。

 

VOL.33:クローンの群れの中で

  あらすじ;切断された頭部を抱え影山の身体は翼を生やし、闇夜を飛ぶ。阿南将軍は初めて生身のマリアと対面し、監視カメラを切らせてマリアの身体を堪能し始める。影山の身体は海まで飛び続け拠点の潜水艦へと辿り着き、脳は部下達により十文字篤彦の身体へ戻された。篤彦はマリアを守れなかった不甲斐無さに慟哭する。目覚めたマリアは数多くの自身のクローンに囲まれ、眠っている内に犯された事を知る。更に拘束された両手を外そうと力を入れた途端、強力な電流がマリアを襲った。

 

 改めて影山の身体は科学の際が集まった驚異的なものであると解ります。自身の翼で空を飛ぶ…、憧れます。阿南将軍とは別の種類にはなりそうですが篤彦もまた自身の夢の為に邁進し、更に部下達ともなかなか良い関係を築いている事が伺えます。マリアを守れなかったと嘆く篤彦を見て涙ぐむ部下達の様子がそれを物語ります。これから独りで戦うであろうマリア。篤彦も今後どの様な動きを見せるのか気になる所です。

 

いけいけジムおやじ

 ハードゲイナーと言う筋肉のつきにくい体質であると言う徳弘氏。それでも徳弘氏が昔から続けているジム通いについてのエッセイです。

近未来不老不死伝説バンパイア参 徳弘正也氏

VOL.18:20戦士の影山

  あらすじ;影山が人知れず昇平宅の前に佇む間、昇平は一晩中マリアを抱き続けた。翌朝、未だ小谷氏に騙された傷の癒えぬ昇平に影山はマリア会の歪みを正す役割のマリア20戦士の存在を明かし、自分はそこに属していると語る。昇平がやらずとも天使粛清は行う予定で、20戦士は十文字篤彦が生前独自に育て上げた精鋭達であり、篤彦以外に存在もメンバーも知らされた事は無く、原理派兵士の中枢に今も紛れ込んでいると言う。

 

 影山は第3の勢力である事が明らかとなりました。阿南将軍の推測は正しかった様です。原理派天使達が革新派に敗れたタイミングで第3の勢力、マリア20戦士の存在を登場させ、新たなる対立構造が生まれます。物語の構成が複雑になりすぎる事なく見事です。阿南将軍達が見ているであろう監視カメラに向かって不敵な笑みを見せる影山。計り知れない不気味さが完璧に表現されています。今後の展開が楽しみすぎます。

 

VOL.19:悪魔の教義

  あらすじ;マリア会で20天使と軍首脳合同会議第一回目が行われた。昇平とマリアの性交中の映像が流され、阿南将軍により今のマリアは昇平の実子であり、神ではないとの説明がなされる。天使達が映像に釘付けの中、平山氏はマリアとの性交で昇平の能力がより高まっていく事を懸念する。一方何もかも筒抜けであったと知った昇平は自宅で大っぴらにマリアと交わり続ける。そんな中いつもの様に影山が昇平宅前に佇んでいると、ブーちゃんが現れた。

 

 原理派と革新派の会合初回は阿南将軍の独壇場です。男しか残っていない天使達は初めて見る快楽に溺れるマリアから目が離せず、平山氏以外は阿南将軍の説明に疑いを持ちません。刺激的な映像で思考能力を削いで主張を通す、人心コントロールもお手のものです。高い能力を持つに至った人物は、それ故に使い方何如によっては天国か地獄の極みを味わう事ができます。阿南将軍の行き着く先はどちらでしょうか。

 

VOL.20:阿南の目的

  あらすじ;ブーちゃんのマリアがここにいると危ないかもと言う言葉により、影山は昇平とマリア、更にブーちゃんも連れて山奥の一軒家へ移る。いざという時のために用意しておいたのだと影山は言う。一方合同会議終了後釈然としない平山氏に、阿南将軍はマリアが昇平の子であると言うデータは全て捏造であり、マリアを捉えて不老不死研究を行うのが真の目的であると語る。そして本田マリアは神ではなかったとの教えがマリア会に着実に広められていく。

 

 阿南将軍の本当の目的が明らかとなります。結局はマリアがずっとずっと戦い続けてきた者達と変わらないと言う事になります。不老不死は確かに多くの人が一度は願うと思われます。自身の目的の為に殆どのマリア会信者を騙し、邪魔者は次々と始末し、マリア達を追い詰めつつある手腕は凄まじいものがあります。マリアを捕らえ、マリアを利用して、もし不老不死を手に入れたとして…その先に阿南将軍の満足はあるのでしょうか。

 

VOL.21:影山の正体

  あらすじ;都会の光も喧騒も全く無い漆黒の夜の中、影山は1人横になりながら眠る事なく回想する。影山は十文字篤彦の脳が移植された身体であった。十文字篤彦として産まれ落ち、すぐにマリアに両親を殺されマリアと暮らした10年間、その後マリアの元相棒で育ての親と過ごした日々、そしてマリアの片腕を見つけて十文字グループの幹部に登り詰めた後唐沢に撃たれるまで、全てを思い返していた。

 

 影山が十文字篤彦の脳を移植された身体である事が判明し、影山の回想により篤彦の人生が詳らかとなっています。人の人生目標は5歳位までに決まると言う説がある様です。篤彦はその時期をまるまるマリアと二人きりで過ごしている事になります。マリアと会えなくなってからもマリアが篤彦の中で篤彦の根幹とも言える存在となっている事は、その説を知るとなるほどと思います。影山としてマリアの前に現れた十文字篤彦。今後の展開が気になります。

 

VOL.22:幸福の日々

  あらすじ;翌朝影山は薪でご飯を炊き、朝食を作る。食後昇平は薪割りを、影山はマリアに誘われて2人で森に狩猟へと出掛ける。マリアは木の蔓や枝で弓矢を作り、雉を仕留める。影山は子供の頃マリアが自然について語っていた事を思い出す。それは先程マリアが弓矢を作りながら語っていた内容と同じであった。影山は今のマリアと昇平の世話をしながら昔のマリアとの生活を思い出し、幸せであったと夜に独り呟く。

 

 都会の便利機能が皆無の中、薪に着火可能な影山の指レーザーは大変便利です。そして竃で炊いたご飯は、手間からその美味しさから現代では贅沢の極みです。篤彦が昔マリアと暮らしていた経験は原始に近いもので、今の潜伏生活に大いに役立っている様です。それ故に昔のマリアとの生活とも近しく、影山の篤彦時代の記憶が刺激され、思い出が呼び起こされやすい様です。篤彦の一番美しかった思い出を堪能できる哀愁に満ちた回となっています。

 

VOL.23:新しい神

  あらすじ;昇平達が山奥の生活を満喫している間マリア会はひたすら集会で昇平とマリアが交わる映像を流し、本田マリアを神としない思想を信者に浸透させ続ける。昇平と影山はマリアが大量に釣った魚を2人で一緒に捌いていた。捌きながら昇平はマリア会の改宗が進んでいる事を懸念するが、影山は信仰はそう揺らぐものではないと楽観的である。更に影山は昇平から今の篤彦への思いを聞き号泣する。

 

 影山こと篤彦にとっての信仰と一般的な信仰との甚だしい乖離が明らかとなる回です。昇平に語った「信仰は命よりも重い」と言う言葉によく表れています。篤彦にとってマリアに対する信仰は自分の全てであり、自分以外の人々も同じ信仰を持っているものと疑っていない様です。この辺り、篤彦が未だ他人の立場で考える事の出来ない人間である事がよく解ります。訪れた20戦士ホログラム数の減少に激昂した影山。しかしその後状況分析を始め、思索を深めていく所などやはり只者ではない部分が垣間見えます。

 

VOL.24:クローンの館

  あらすじ;阿南将軍は自ら車を運転し、平山氏を郊外山中の洋館へ連れて行く。水素爆弾に耐えうる館のエレベーターに乗り辿り着いた遥か地下には秘密裏の不老不死研究施設があり、選び抜かれた生物学者達が勢揃いしていた。彼等はマリアを捕えた暁には、本格的に研究をスタートさせると言う。施設の頑健な扉の奥には必要に応じた様々なマリアのクローンが作成されており、これらを駆使して阿南将軍はマリアを手に入れると言う。

 

 不老不死に取り憑かれた阿南将軍の本気がよく伝わってくる回です。本田マリアを捕えてその身体を研究しても自身が不老不死になれる保障も無いわけですが、阿南将軍は微塵も疑っていない様です。ひたすら不老不死実現に向けて爆進しており、迷いがありません。良くも悪くも人が夢を実現させる為の必要な要素が全て詰め込まれています。阿南将軍の夢は一般的に受け入れられにくいですがその情熱、手腕は認めざるを得ません。

 

VOL.25:生まれくる神

  あらすじ;マリアの赤ん坊クローンに指名が入る。その頃影山からマリア達に武器が配られ、襲撃があるまでいつも通り暮らす事が決まった。そしてマリアのお供で影山は森に狩猟へと共に向かう。早めに狩猟が終わったので、影山はマリアを国営農場が見える丘へ連れていく。国の供給熱量自給率を40%から80%へ引上げたマリア会の功績を誇らしげに語る影山に、マリア会は間違っているとマリアは言った。一方マリア会ではクローンの神マリア出産映像が流されていた。

 

 影山が今までマリアの為と行ってきた活動を真っ向から否定される回となります。マリアは篤彦と言う人間の本質を容赦なく、鋭く影山に語ります。マリアの前にいたのが影山であろうと篤彦であろうとマリアの言う事は変わらなかったでしょう。昇平を簡単に信じさせる事はできても、マリアを騙す事はできません。前作最後でマリアを見限りながら、今作で影山となって再びマリアの為と尽力する影山こと十文字篤彦。彼の本音は何処にあるのでしょうか。

 

龍王峡の冒険:巻末エッセイ漫画となります。今回は山奥背景の為の取材旅行が描かれています。良い背景は作品の質を高める為に欠かす事は出来ません。徳弘氏の涙ぐましい努力を知る事ができます。

近未来不老不死伝説バンパイア弍 徳弘正也氏

VOL.9:結ばれる二人

  あらすじ;天使奥須殺害後の帰り道、マリアはここなら誰も見ていないと主張し、下水道で昇平と結ばれる。行為後マリアは事前に仕入れていた情報と大分違う股回りの痛みに襲われて地上に上がるも通常歩行くに支障をきたし、昇平におぶってもらい帰途につく。阿南将軍と小谷氏は自身達も逢瀬中に監視カメラによるマリアと昇平が結ばれる様子を確認し、阿南将軍はさらなる証拠映像を集める様小谷氏に指示する。

 

とうとうマリアの念願が叶います。マリアは下水道に監視カメラは無いであろうと思っており、昇平も監視カメラの可能性を無視した行動をとっています。が、当然の如くベストアングルで結合行為を撮れる程カメラの準備は完璧です。マリアはともかく、昇平がこの懸念を持たないのは気になる所です。マリアへの理性的な愛情と本能的な欲情の間で警戒が鈍ったのでしょうか。本能からくる欲望は本当に強敵です。

 

VOL.10:14天使たち

  あらすじ;マリア会一般信者向け集会の裏で、残り14人の天使達が集まっていた。智天使平山氏を中心に、昇平に天使を殺害させている小谷氏も混ざっている。平山氏は殺害の犯人は昇平とマリアである事を伝え、他の天使達に動揺が走る。混乱の中、天使達はマリアが日常生活を続けられるのは原理派天使が革新派軍首脳から守っているからだと憤り始め、最終的にはマリアが襲ってくるなら抹殺すべしとの結論に達する。

 

 今回で小谷氏は故意に昇平に偽の情報を流しており、昇平は手の平の上でいい様に転がされている事がわかります。前回の下水道監視カメラの存在は天使側に知らされていず、現状では阿南将軍有利の様です。更に今回は刺激的で残酷なイベントを催して大衆を釘付けにしておき、裏ではドロドロの権力争いや騙し合いを繰り広げるという遥か昔から繰り返されてきた組織権力の歴史あるあるが描かれています。

 

VOL.11:陰謀の中のマリア

  あらすじ;小谷氏から天使達の様子を聞いた阿南将軍はマリアを生きながらにして利用する為、天使達にマリアを殺させない様小谷氏に指示する。一方一度交わりを持ったマリアと昇平は監視カメラだらけの家の中でいかにマリア会に決定的な証拠を撮らせずに交わりを持つか、自身の欲望と必死に戦いつつ模索を続ける。阿南将軍と小谷氏はその様子を見続けていた。

 

 冒頭の小谷氏とのやり取りで阿南将軍の能力の高さが伺えます。全体を見通す視点と客観的分析能力に基づく判断も説得力があります。世知辛い世の中で成功するには不可欠要素となってきます。高い才能を持っていても才能に合った環境を見つけ、行動しなければ宝の持ち腐れとなってしまうのが悲しい所です。阿南将軍は良くも悪くも成功した人と言えます。一方マリアと結ばれた昇平はテレパシー能力が一部戻って来ます。これからが楽しみです。

 

VOL.12:三人目の暗殺 3人の天使

  あらすじ;ある山深い洋館に昇平が小谷氏に原理派天使として紹介された3人の本体がいた。人知れず隔離されている3人は心が壊れている。3人のホログラムは小谷氏と共にBAR&CAFE蝙蝠で昇平を笑顔で迎え、奥須殺害を祝福する。そして小谷氏は三人目のターゲットに天使遠山恒吉を上げ、昇平に殺害を指示する。マリアと共に遠山宅へ向かう途中、下水道に入った所でマリアは昇平を求める。

 

 マリア会のマリア律法は、山奥の地方の子供達にまで浸透している事がわかります。そこに隔離されている壊れた3人。彼等が正気に戻る事はあるのでしょうか。何かが間違うと誰でも壊れる可能性があります。気を付けたいものです。そして天使殺害に使用する下水道通路は早くもマリアと昇平の逢瀬を行う場となっている様です。地上であれ程警戒していた昇平。地下の監視カメラの可能性を失念するのは気になりますが、欲望と理性の狭間で葛藤する昇平にそこまで求めるのは酷かもしれません。

 

VOL.13:第3の男影山

  あらすじ;4台の装甲機とロケットランチャーで迎えられた遠山の殺害が完了した。残りの天使と共に一報を受けた平山氏は殺し屋を雇う決定をする。翌日マリアのクラスに男子の転入生が来た。影山と紹介され、容姿は端麗、スポーツ万能で早くも女子学生の注目をさらう中、影山はずっとマリアに視線を送り続ける。マリアの取巻き石黒ひとみ氏は天使達が雇った殺し屋の可能性があると影山を呼び出すが、戻って来たのは影山だけであった。

 

 暗殺を迎え撃つ天使の装備も重厚になってきました。小谷氏からの新しい武器、レーザー銃が活躍します。加えて昇平のバリア能力もほぼ戻った様で、マリアと交わり加速度的に能力が戻ってきています。そして新キャラ、影山初登場です。どうやら優秀な様で、マリアを知っている様で、マリアと昇平は警戒し、小谷氏は天使達側の殺し屋と思い、阿南将軍は様子見…と憶測が憶測を呼ぶ回です。

 

VOL.14:ゆれる20天使

  あらすじ;昇平宅の前で佇む影山は天使に雇われた殺し屋の襲撃を受けるが返り討ちにする。その映像は天使達や小谷氏の混乱を招き、阿南将軍は驚きと共に第3の勢力を感じ取る。その間何も知らずに浴槽で交わっていたマリアと昇平であるが、その後昇平はマリアに結婚を申し込み、2人は夫婦となる。一方阿南将軍が調べても影山のデータは見つけられなかった。マリアも影山を問い詰めたが、影山はマリアの味方であると告げるのみであった。

 

 マリア会の誰もが影山を知らなかった事が明らかとなります。原理派と革新派の対応の違いが印象的です。パニックに陥る原理派天使達と影山の情報を集め始める革新派阿南将軍。次々と仲間が殺害され追い詰められている中、平山氏が平静を保つのは困難でしょうが、この様な時にこそ冷静になり情報を集める事の大切さがわかります。とにかく分からないまま話を進める程危険な事はありません。最大のストレスはわからない事だと言うお話を聞いた事があります。

 

VOL.15:筒井暗殺の夜に…

  あらすじ;翌日朝マリアが登校しようとすると、家の前に既に影山が迎えに来ていた。昇平が読んだ影山の心の中はマリアを神とし、守ることのみであった。影山は宣言通りその後ずっと可能な限りマリアの側に付き、見守り続ける。その日の夜昇平はBAR&CAFE蝙蝠を訪れ、次のターゲットの天使は筒井茂子であると指示を受ける。以前と同じく途中の下水道で逢瀬を重ねた後辿り着いた昇平とマリアを筒井茂子は只1人で待ち受けていた。

 

 影山は昇平と初対面を果たし、本格的にマリアの護衛を始めます。昇平は前作シリーズからテレパシーで読んだ人の心をそのまま信じると言う傾向があります。何につけ、鵜呑みにするのは大変危険であると教えてくれます。そして田中氏ことブーちゃんと影山の初絡みがあります。思春期男子のブーちゃんと浮世離れした影山。今後が楽しみです。加えて天使殺害に向かう途中での昇平とマリアの交わりは恒例となり、昇平にどんな能力が増えるかも興味アリです。

 

VOL.16:20天使の敗北

  あらすじ;昇平とマリアに殺される前に自ら頭を撃ち、果てた筒井茂子。一報が伝わった天使達は集まり、自分達が助かる方法を色々提案してみるも手詰まりとなる。その後も小谷の指示により、昇平とマリアは毎回逢瀬を重ねながら次々と天使達を始末して行く。残り少なくなって行く天使達に危機感を感じた平山氏は1人、阿南将軍の元を訪れて命乞いをする。かくして原理派天使達は革新派の軍に敗北することとなった。

 

 筒井茂子は天使の中でも相当気骨のある人だった様です。同じ派閥の中でも人格は様々であると教えられます。人格者の素養がある程、属する組織が間違ってしまうと悲劇的な結果を招く気がします。筒井茂子氏は選択次第によってはなかなかの人物になっていたかもしれませんん。自分の命を賭しても自分を貫き通す筒井茂子氏とは真逆の存在として平山氏は描かれています。命と特権を守る為ならば如何様にも変わる平山氏。…人はどう生きるのが幸せなのでしょうか。

 

VOL.17:阿南将軍の陰謀

  あらすじ;小谷清子氏は空いた時間を利用し、マリア会の生まれた聖地へ足を運ぶ。ボロボロに荒れ果てた聖地BODY BUILDINGの建物の前に佇み、昔を回想する。夜になっていつも通り昇平と待ち合わせているBAR&CAFE蝙蝠の中へ入ると阿南将軍のホログラムが待っていた。遅れて昇平が蝙蝠に入ると小谷氏は息絶えていた。いつの間にか背後にいた影山により、小谷氏は阿南将軍に口封じで殺された事を告げられる。

 

 若かりし頃の小谷氏とあーちゃん事十文字篤彦氏の繋がりが描かれています。人は心の中に強い思いを持っていればどんな事でも出来ると教えられます。志半ばで始末されてしまいましたが、小谷氏のあーちゃんへの一途さは胸に迫るものがあります。一方小谷氏に騙されていたと知った昇平の行動は頂けません。昔も今もマリア会に騙されたと自暴自棄になる昇平。大いなる反面教師として心に刻んでおきたい所です。

 

いけいけジムおやじ:作者徳山氏のジム通いエッセイとなります。ジムでのアクシデントなどが描かれています。

 

 

近未来不老不死伝説バンパイア壱 徳弘正也氏

VOL.1:本田マリア

  あらすじ;2010年マリアが少女の頃、国はクーデターによってマリア会の配下となった。2014年マリア立法は国中に浸透し、マリアの通う高校でも唱和が義務付けられ、唱和をしなかったマリアは反省室で鞭打たれていた。反省室から戻ると、友人のブーちゃんも制裁を加えられ、廊下に立たされていた。学校からの帰り道でも江戸時代さながらの公開処刑が行われているなど、マリア会による支配前とはまるで違う光景が繰り広げられていた。

 

 昭和編バンパイア続編となります。オープニングだけあり丁寧な状況説明を巧みに織り込み、物語の世界観がよくわかります。加えて前半のアシスタントさん総動員かと思われる程の緻密な一コマ一コマが圧巻です。一切の妥協がありません。場面展開も複数交えて飽きがこず、解りやすいです。後半の公開処刑で刑罰を受ける罪人の表情も見事な生々しさで描かれており、初っ端からクオリティの高さに圧倒されます。

 

VOL.2:本田マリアは妹

  あらすじ;マリアは帰宅途中昇平と会い、クラスメート石黒ひとみと別れて一緒に帰途に着く。帰宅後、昇平はマリアの体の傷に気付いてガマの油を塗るが、その間マリアは自分を妹としてではなく女として扱って欲しいと切望していた。しかし、どんなに強く思い願ってもマリアの心の声は昇平に届く事はなくなっていた。不完全に生まれたマリアでは昇平の超能力を保つ事はできず、昇平の能力は弱まっていた。

 

 昭和編の貧弱な黒髪容貌は何処はやら。大幅にイメチェンしたムッキムキ昇平となっております。髪の色も明るくなり、イケメン部類ではないかと思われます。今回は昇平のばあちゃんが既に他界しているなど2人の状況も紹介されながら、前半では昇平とマリアの昭和編から続くこの国に対する考え方の違いも改めて語られています。さらにはマリアの昇平への溢れんばかりの恋心も描写されており、物語へ入り込む準備は整います。

 

VOL.3:昇平の戦い

  あらすじ;マリアと友人ブーちゃんが登校中の朝から、二足重戦車が列を成して道を歩いていた。ブーちゃん曰くマリア会の20天使の1人、中村雄太郎殺害の犯人を捜しているらしい。すると戦車の内の1台が姥捨て山からの脱走老人を発見する。ブーちゃんの『じいちゃん』と言う言葉を聞いたマリアは、老人を始末しようとした戦車に立ち向かい老人を逃がそうとするが、老人は射殺される。戦車の操縦者達はマリアが神マリアであると気付き涙を流して拝み去る。

 

 この国は70歳以上が間引きされる世界である事が紹介されています。公開処刑や姥捨て山の復活は考えさせられるものがあります。結局老人はブーちゃんの身内ではありませんでしたが、実際ブーちゃんのじいちゃんは姥捨て山行きとなっていて、自分の身内がそうなったらと想像せざるを得ません。また、老人救出のためマリアの驚異的な身体&戦闘能力が披露され、今後の活躍が期待されます。更に今回は昇平の職場や仕事内容も描かれています。ムキムキも納得です。

 

VOL.4:原理派対革新派

  あらすじ;マリアは戦国時代での戦闘を回想していた。治癒能力はまだであるが、本来の戦闘能力が戻った事を自覚し、ブーちゃんに自分がどの様な生物であるかを語る。一方昇平はBAR &CAFE蝙蝠という店を1人訪れる。中ではマリア会20天使の1人、清子氏が待っていた。清子氏は今回、昇平に天使の1人中村雄太郎を殺害する様話を持ちかけて手助けをした人物であった。

 

 前回のマリアの戦闘能力は本来の能力が戻ったものである事が語られています。これからは残りの能力も戻ると思われ、頼もしい限りです。加えて天使の1人である中村雄太郎殺害の顛末と共に、マリア会が2派に分裂しており、その抗争に昇平も巻き込まれているであろう事が描かれています。マリアは闘いの後性欲が激しくなるなど青年向けの設定も加わり、どんどん内容が盛り沢山となってきて目が離せません。

 

VOL.5:欲望の本田マリア

  あらすじ;監視カメラによるマリアの映像が流れる中軍幹部会議は続き、マリア会で作成したクローンのマリアを神にしようとする計画が語られる。一方マリアは学校より帰宅し、昇平は入浴中であった。マリアは自身も風呂場へ入り、昇平への欲情を告白する。受け入れてはもらえなかったが、昇平がかなり我慢している事がわかり喜ぶマリアであった。翌日マリアはクラスメート石黒氏より中村雄太郎殺害が昇平の仕業であると知らされる。

 

 前回の終わりから引き続き、マリアの関係するありとあらゆる場所に監視カメラが設置されている事がわかります。マリアを守りたい昇平はマリア会の求める純潔なマリアを裏切らぬよう涙ぐましい努力で欲望を抑えます。個人的にはほぼほぼ手遅れの様な気がするのですが、決定的行為を撮られなければギリOKと考えることにしました。因みに後半の風呂場で昇平に拒まれた後、泣きながら顔を上げたマリアの表情が非常に美しいです。

 

VOL.6:マリア会の刺客

  あらすじ;石黒氏より昇平の所業を知ったマリアはまだ終わらない学校を飛び出し昇平の仕事場へ急ぐが、昇平は昼食休憩中であった。近所の寺で1人昇平は昼飯を食しながらマリアの昨日の体付きや感触を思い出し、食後我慢の限界を超えて自慰行為を始める。その直後、殺し屋と思われる刺客が昇平を襲う。昇平は念道波で応戦するが、途中で念道波が全く出なくなってしまう。

 

 マリアが昇平の元向かう冒頭にてマリアや昇平に限らず、街中のあらゆる所で監視カメラが設置されている描写があります。監視カメラの社会が行き過ぎた末の歪みを見る事ができ、便利な最新機器の使用は塩梅が重要であると感じさせられます。お話の内容は昇平の弱まって行く能力とマリアの急上昇した戦闘能力の対比が興味深いです。昇平の手伝いを願い出るマリア。目が離せなくなってきました。

 

VOL.7:四人の原理天使?

  あらすじ;昇平は自身の天使殺害をマリアに騙されたと気付き、天使殺害を持ち掛けた小谷清子氏に抗議する。しかし清子からマリア本人を神とする原理派を取り巻く厳しい状況と、昇平1人では到底全ての天使殺害は無理であろうと言う指摘を受ける。昇平は何もかも清子に筒抜けである事を痛感し、清子にいい様に利用されているとわかっていても今は清子の指示に従う他はないと思う。

 

 冒頭の昇平の力になりたいと願うマリアとマリアを危険に晒したくないと言う昇平の気持ちの交錯が切ないです。大分エロエロな妄想描写も伴いますが。その後の昇平と小谷清子氏のやり取りから、個人が大組織と渡り合う難しさを知る事ができます。圧倒的な情報収集能力と投入可能な人材や技術の数々。個人でまともにぶつかっては到底太刀打ち出来ず、組織側の思惑通りにいい様に踊らされてしまう事がよくわかります。

VOL.8:将軍と20天使

  あらすじ;次の殺害ターゲット奧須正男の家へ向かう昇平とマリア。昇平は途中隠していた武器をマリアに渡し、昇平は自身が奥須を狙うと告げ、マリアには奥須宅にいる番犬を倒す様指示する。マリアは家にいたドーベルマンの息の根を全て止めたが虚しさだけがこみあげ、期待していた絶頂を全く感じる事なく昇平の元へ向かう。昇平は離れの教会で説教を終わらせて戻って来た奥須を、念動波で首を切断して殺害していた。

 

 冒頭マリアは初めて敵を討つ、しかも昇平の手伝いで、という事でワクワクが止まらない様です。下水道から地上に上がる際は凄まじいバネで地上までジャンプし、番犬のドーベルマンはほぼ一刀両断する強さを発揮します。しかしドーベルマンを始末した後のマリアの心情の変化に深く考えさせられます。行う前の想像と行った後のギャップ描写が流石です。実際に生きている者の命を奪うという行為を行った時、人はどの様な状態になるのか、可能なら経験せずに死んでいきたいものです。

 

いけいけジムおやじ

 徳弘正也氏が近所にできたスポーツジムに通う生活を描いたエッセイです。

昭和不老不死伝説バンパイア5 徳弘正也氏

 

VOL.33:マリアとの絆

  あらすじ;マリアからの電話を取った昇平は、マリアが岐阜県北アルプス笠ヶ岳の近くにいる事を聞き出す。一方比丘尼クラブでは十文字護弘が親様となり、実質篤彦の思い通りとなる。そんな中コモンセンス社のマリア捕獲部隊は、マリアの睡眠パターンを見極めようと監視を続ける。そして唐沢はその日の夜マリア会に招かれ、天使達より大歓迎を受けた。翌日昇平はばあちゃんに資金援助を受けて背中を押され、北アルプスへ向かう。

 

 蜘蛛の糸の如く繋がれたマリアとの電話から必死に居場所を知ろうとする昇平にのっけから心奪われます。その周りで篤彦と唐沢、コモンセンス社がそれぞれの目的の為、活動を繰り広げます。特にマリア会での唐沢の演説場面は深く深く考えさせられます。心の中はいざ知らず、傍目には何の疑いもなく唐沢の話にきちんと耳を傾け賞賛の態度を示す天使達に日本の国民性を痛感します。感動必須のばあちゃんの後押しを受けた昇平がマリアに再会できる事を願ってやみません。

 

VOL.34:マリアに会える

  あらすじ;昇平はマリアと同じく、新穂高温泉よりマリアに会う為自身も山へ入って行った。篤彦は唐沢の仲介でコモンセンス社重役兼駐日大使エドワード・ハリマンと会う。ハリマンは最高顧問カーネルより預かったマリア会のクーデターに中立な立場をとる旨の書簡を篤彦に渡す。そしてコモンセンス社のマリア捕獲部隊は引き続き山奥でマリアの睡眠のサイクルを見極める為、サーモグラフィーを導入してさらに監視を続けていた。

 

 遂に山の入り口まで辿り着いた昇平。何も知らず、昇平が来るわけないと自分に言い聞かせているマリアがとても切ないです。一方コモンセンス社の強大さも描写されており、コモンセンス社の思惑は一国の体制が根本から変わるか否かをも左右する事がわかります。篤彦はコモンセンス社と対等に渡り合っていると思い込んでいますが、結局はコモンセンス社の掌の上で転がされているだけであった様です。

 

VOL.35:面会の二人

  あらすじ;突如降り出した雨の中、マリア捕獲が始まった。目を覚ましたマリアは身包み剥がされ拘束されており、比丘尼より更に強大な組織にはめられたと知る。昇平は近くでその銃声を聞き、昇平を排除しようとしたコモンセンス社兵士を返り討ちにして始末した。マリアを見つけた昇平にマリアは来ない様叫ぶが、昇平はコモンセンス社兵士が浴びせる雨霰の様な弾丸を全て跳ね返し、マリアを助ける決意をする。

 

 前回鳥が囁かないと訝しんでいたマリアですが、流石にここまで大規模な組織に狙われているとは思いもよらなかった様です。コモンセンス社兵士のマリアを捕獲する手際は大変見事でした。一切の情を消して命令に忠実に従っている事が伝わってきます。人間は、どの位の期間、どの様な訓練を受けたらこの様な忠実な兵士となるのでしょうか。彼らも職務を離れたら心平静に暮らす事はできるのでしょうか。そして昇平の能力が大開花します。

 

VOL.36:激突

  あらすじ;凄まじい数の銃弾を全てガードして跳ね返しながら一歩一歩マリアへ近づいて行く昇平。その隙にマリアは自分の手を潰しながら手枷を外して反撃を開始し、手の届く兵士を始末した。しかしまだ遠くから狙われていると指摘するマリアに、昇平は念力バリアを安定させられる旨を告げ、銃弾が未だ止まぬ中2人は抱き合い、唇を重ねて再会の喜びを分かち合う。

 

 全ての弾丸を跳ね返せると強く自分に言い聞かせながら前進する昇平に深い感動を覚えます。マリアもそれに応える様自分で次々と兵士達を始末していきます。手枷の外し方から石つぶてでの反撃開始、更には敵の武器を奪い、銃弾を受けながら倒していく様は圧巻です。そんな大興奮のバトル後、2人が再会を喜び合う様は更なる感動に震えます。束の間の幸せがひしひしと伝わってきます。

 

VOL.37:神マリアの正体

  あらすじ;留守電で昇平が北アルプスに向かった事を知り、篤彦は憤りを抑えられない。一方マリアは足枷も外し、昇平の指示で岩砦に籠ることになった。すぐにでもこの場を離れたいマリアはなぜ籠城するのか昇平に尋ねる。昇平は篤彦とマリア会の存在をマリアに説明し、必ずマリア会の天使達が2人を助けに来ると力説した。篤彦からの助けが来る事を信じて疑わない昇平を見て、マリアは自分の認識が甘かった事を痛感する。

 

 冒頭でマリアと昇平をどれだけお互いを大事に思っているかが伝わって来ます。のっけから心に沁みます。今回はいつもよりページ数が多い様で、内容も充実です。唐沢が篤彦の真の本音を余すところ無く篤彦に突き付けます。今まで集めた資料の中で何が一番篤彦を動揺させるかを唐沢は充分心得ており、畳み掛けるタイミングも見事です。唐沢の抜け目ない有能さ、ひいてはその様な人材を抱えているコモンセンス社の恐ろしさまでも描かれています。

 

VOL.38:コモンセンス社の甘言

  あらすじ;朝から昇平は、マリアが何と言おうと篤彦の助けを信じてコモンセンス社からの一斉射撃をガードし続けていた。相手はマリアが死ぬ攻撃ポイントや加減も熟知しており、挙句の果てにはミサイルまで飛んできた。それでも昇平は篤彦の助けが来るまでと懸命に全ての攻撃を跳ね返し続ける。昇平の体力も限界を超えた頃射撃は止み、マリアへ投降を促すアナウンスが流れ始めた。

 

 冒頭より前回の終わりから引き続き、前日の比ではない銃弾が浴びせられています。昇平を支えているのはマリアを守りたい強い想いと篤彦の助けがあると言う希望です。一瞬でも篤彦を疑っていたら、2人は銃弾で穴だらけだったでしょう。その裏で描かれている篤彦の覚醒が素晴らしく、圧倒されます。ずっと自分をも欺き続けていた本心を認めた篤彦。人間は良くも悪くも自分の本音と向き合うのが精神衛生上非常に大事であることがわかります。

 

VOL.39:決断

  あらすじ;篤彦の裏切りを知った昇平にマリアは落ち着く様語りかける。すぐには受け入れられない昇平を優しく諭し、コモンセンス社から一晩考える時間をもらう。マリアは昇平を水浴びに誘い、未だ篤彦を信じていたい昇平に、篤彦がどの様な人間であるかを説明し、これからはマリアの考えた策に従う様指示する。そしてマリアは我慢できなくなり昇平を求め、2人はそのまま交わりお互いの愛情を確かめ合う。

 

 遥か昔から人間を見続けてきたマリアの深い洞察が披露されています。昇平から篤彦やマリア会の存在を知らされた途端、マリアには篤彦という人間の本性がわかったのでしょう。今回マリアから語られる言葉は、本当に人間と言う生物の本質を説明している様に思われます。それはマリアがずっとずっとその様な人間達の標的となってきたからでしょう。それでもその度に昇平の様な素晴らしいパートナーを見つけて来たが故、マリアは素晴らしいのだと思います。

 

VOL.40:マリアからマリアへ

  あらすじ;コモンセンス社の兵士達が監視を続ける静寂の夜、砦の中でマリアはマリアを産んだ。今のマリアもまだ4年目の中産まれたマリアは生命力が弱かった。マリアは赤子のマリアに生きる様声を掛けてリュックに納め、朝昇平に託す。コモンセンス社に抵抗の意を示し、激しい銃弾が降る中でマリアに檄を飛ばされ、昇平はもうマリアを守れないという断腸の思いを抱えて赤子と共に逃げ延びる為、川に飛ばした倒木に飛び乗る。

 

 毎回号泣必須の傑作回です。ギリギリの状況でも諦めずに昇平を逃し、自身もどの様な形であれ生き続けようとする美しすぎるマリアが描かれています。昇平にも痛いほど伝わってきたのでしょう。昇平のガードが外れ、まともに銃弾を浴びるマリア。およそ人間相手とは思われない攻撃を昇平にも浴びせ続けるコモンセンス社から生命果てるまで守り続けたマリアは、神々し過ぎて筆舌に尽くしがたいものがあります。本当に心を鷲掴みにされる回です。

 

VOL.41:現在より未来へ(ここよりとわへ)

  あらすじ; ヘリの対戦車ミサイルから昇平を守り、ヘリと共に四肢もバラバラとなったマリア。全て目撃した昇平は、まだまだ昇平を狙う兵士達を一瞬にして全滅させる。コモンセンス社最高顧問カーネルは撤収を決定する。唐沢は一部始終の報告を受け、兵士達の無能ぶりに地団駄を踏む中、一緒にいた篤彦はマリアが逃げ延びた事に満足し、改めて自身が国を救う天使となることを表明する。後ろに立っていた唐沢は篤彦に銃を発砲し、昇平は東京の自宅へ戻り、ばあちゃんと子供のマリアと共にいた。

 

 全くもって最後までジェットコースターの様です。マリアの死を目の当たりにした後に昇平の能力は全開放されます。その後骸となって流れる首の無いマリアの上半身に手を伸ばす昇平が心に突き刺さります。また、実際に現場を見ていた者と唐沢の反応の違いも興味深いです。現場と指示出しの心持ちの違いに通ずる所がある気がします。そして篤彦の描写も抜かりありません。この作品のもう1人の主人公であったのではと思ってしまいます。

 

 あばれん坊の華麗なる温泉

休日温泉に行き始めた徳弘氏の草津温泉訪問記になります。